【特集】 「変わるファッション業界と就活。」 Topic#3 デジタル化が加速する中、理解すべきは企業背景

  • 2021年03月29日更新
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コロナ影響下の採用の表と裏

ちょうどコロナウイルスの影響が出始めたのは20年の2月。通常であれば早期の合同企業説明会などが続々と実施される時期だ。しかし、人が集まることを避けなければならないという条件のため、新卒採用に関連したイベントは、3月に向けてそのほとんどが中止になってしまった。

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就活イベントが突然無くなったことで、学生が戸惑ったことはもちろんだが、それ以上に企業の採用担当の混乱は相当なものだった。ファッション業界の新卒採用は、もともと学生一人ひとりの個性を尊重する場合が多く、できる限り対面での選考を重視する企業が多い。そもそもオンラインなどで採用選考をしようとする企業の数自体が非常に少なかったため、各採用担当は急遽オンラインでも企業紹介ができるように「オンライン企業説明会」の動画の作成を余儀なくされた。

その裏側で更に採用担当の業務を圧迫したのは、4月から企業に入社してくる新入社員たちの存在だ。入社式を急遽キャンセルし、担当者は研修プログラムや配属の見直し、自宅待機になってしまった新入社員のフォローなどに追われ、新卒採用をしていられる状況ではなくなってしまっていた。

企業としては売り上げが大きく落ち込んだ影響も非常に大きい。政府は4月7日、7都府県を対象に緊急事態宣言を発出した。16日には全国に拡大し、百貨店、SCなど大型商業施設の大半は臨時休業を余儀なくされた。約1カ月半に及ぶ全館休業や食品など一部売り場だけの縮小営業で、大型商業施設、取引先を含めたサプライチェーンは深刻な打撃を受け、春物や初夏物の商戦が消失する前例のない大きな痛手となった。特にここ数年、ブランドのターゲットを絞り、都心部のファッションビルを中心に出店して業績を伸ばす企業の活躍が顕著だったが、その勢いも約1カ月半の都心部ファッションビルの休業によって鈍化してしまった。

この2、3年間の企業の経営課題には、いつも人材の確保と教育が掲げられていた。バイトや中途入社の社員ではなく、新卒採用という形で人材を入れ、企業内の新陳代謝を促すことが今後の企業成長にとって必要だと感じている経営層が多くなってきたからだ。そして、そのミッションを受け、採用担当者は年間を通じて学生たちに事業内容や経営理念を伝えていた。直接各社の話を聞く限り、新卒採用を途切れさせることなく継続したい、と思っている担当者がほとんどだ。しかし、特に小売りを中心としたファッション関連企業は、ちょうど1~3月に決算を控えている企業が多く、経営側としては最終的な売り上げや利益などの業績を見て、採用の有無や規模を決めたいと考えている。そのため業界全体として、新卒採用に対して慎重にならざるを得ない状況が生まれてしまっているのだ。

大規模なリアル就活イベントは企業比較研究につながる貴重な機会だった

企業の見るべきポイント

各企業が慎重にならざるを得ない状況においても、新卒採用を継続する企業は一定数ある。では、そういった企業に対して学生は何を見れば良いのだろうか?まず注目してほしいのは、その企業が既存のビジネスに凝り固まらず、新しいことに柔軟かどうかだ。大前提として、ファッション業界はトレンドをベースに「変化」する産業であり、景気や社会変動の影響を大きく受ける産業でもある。そういった様々な変化を受け、その企業がターゲットに対して時代に合ったコミュニケーションができているかが非常に重要となる。学生の皆さんは、企業が今の時代性をどう捉え、新しく何に挑戦しているかということを就活の中で必ず確認するようにしてほしい。

次に注目してほしいことは、小売り事業を持つ企業がネット販売をリアル店舗と連携して進めているかということだ。11年以降、急速に普及していったスマホによって、ネット販売は商品購入の主力の「販路」としてすっかり定着し、19年度にそのシェアは業界全体の売上高の12.3%まで高まった。今後、そのシェアはさらに高まるものと見られている。

19年度EC市場の推移

更にコロナ禍の影響を受け、各企業は休業せざるを得なくなってしまったリアル店舗の代わりとしてネット販売に注力し、その結果ファッション業界のデジタルシフトは急速に加速した。現在はネット販売に注力する企業の売上高における割合は、約20~30%にまで上昇してきている。数年前までは、売上高の10%前後程度しかネット販売の割合がなかった企業が非常に多かったことを思うと、この短期間の売り上げ構造の変化にはとても驚かされる。

しかし、逆の見方をすれば10人中7~8人は、従来通りリアル店舗で商品を購入しているということの証明でもある。そのため、各企業はネット販売に注力をしつつも、リアル店舗の重要性を大きく変えてはいない。いま企業が目指しているのは「オムニチャネル化」であり、いつでもどこでもお客が欲しいと思った商品が、望む購入方法で手に入るということが理想だ。以前はネット販売の売り上げが上がると、リアル店舗に来るお客がネットに流れてしまう、と言われていたこともあるが、今となってはそんな考え方はナンセンスだ。企業が今考えなければならないことは、リアルとネットを連携させ、その両方を使っていかにブランドやショップのファンの満足度を高められるかということだ。企業におけるリアルとネットの役割と、それらの協力体制にもぜひ注目してもらいたい。

最後は、その企業が海外への目線を持っているかだ。海外渡航が禁止されている現状では想像しづらくなってしまっているが、世界規模で見れば本来ファッションビジネスは成長産業だ。世界のファッション市場の規模は約150~160兆円だが、この数字は世界の人口増加に伴い今後も伸びていく傾向にある。逆に日本国内を見れば、人口は徐々に減っていくことは明らかだ。今後、企業が国内だけで勝負するのであれば、他社の国内シェアを何らかの方法で奪うか、今までアプローチしてこなかった層へビジネスを展開しなければ大きく成長することは難しい。

先を見据えた企業は、この間着実に海外戦略を推進している。ファーストリテイリングはユニクロを中心に、既に海外の売り上げが国内売り上げを超えている。環境が激変する中でも、アダストリアは19年12月上海にライフスタイルブランド「ニコアンド」グローバル旗艦店を開設し、12月には上海2号店を開設した。マッシュホールディングスも中国を中心に海外出店をしており、店舗数も100を超えている。商品を卸すのか、店舗を出すのか、現地法人と提携するのか、ネット販売で展開するかなど方法は様々だが、間違いなく企業にとって海外戦略は成長の軸になるはずだ。ブランドへの憧れなどは就活において大事な動機付けの一つではあるが、この媒体を読んでいる方は、ぜひそこからもう一歩踏み込んで企業やそのビジネスの背景まで見るように心掛けてほしい。

20年12月19日にオープンしたニコアンド上海2号店

センケンjob新卒編集長・鈴木厚司

(センケンjob新卒'22-'23BOOKより)

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