【特集】 「変わるファッション業界と就活。」 Topic#1 21年のファッション業界

  • 2021年03月29日更新
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私が作るファッションの明日

世界は今、大きな転換期にある。突然やってきた新型コロナウイルスの影響を受けない者はいない。日本のファッションビジネス業界も20年は変化の大きな1年だった。気をつけたいのは、決して負の影響ばかりではないことだ。気づきや確信を得て、力強く進む企業や働き手は多い。繊研新聞では21年の1月1日付から「私が作るファッションの明日」と題し、そうした人々にスポットを当て、掲載を続けている。

大きな喪失を乗り越えて

まず、20年に起こったことを整理していこう。新型コロナは、リモートワークの定着やECの伸長などを促し、消費者のライフスタイルは一気に変わった。都心から人々のにぎわいが消え、大型商業施設をはじめ、多くの店が休業を強いられた。人が足を運び、集まったところで商品を売るという当たり前の行為が成り立たず、売り上げが作れない状況にも追い込まれた。

こうした商業施設などの休業によるファッション関連の売り上げの〝喪失〟は、ざっと2~3兆円と見られる。繊研新聞社では四半期ごとに「ファッションビジネス景況・消費見通しアンケート」を行っており、20年1~6月期には大半の企業が「景況感は悪くなった」と回答した。その後も一時的な回復局面はあったが、1年を通じて厳しい状況が続いた。特に売り上げへの影響を11月の調査結果で見ると、10~30%未満の減少が半数、30%以上の減少も17・3%を占めた。19年の国内のアパレル小売り市場の規模は約9兆6500億円(繊研新聞社による推定)。これをもとに単純計算で、20~30%の減収とすれば、2~3兆円近い減収になる。このダメージはバブル経済崩壊やリーマンショックを上回る。

有効な販路がECに絞られるなかで、百貨店を主販路としてきたアパレルメーカーの経営危機が目立つことにもなった。名門レナウンの倒産は業界に衝撃を与え、これを引き金に「国内のアパレル企業、約1万8000社の半分がなくなるのでは」という見通しも出るほどだった。

しかし、信用交換所の調査では20年の負債総額50億円以上の大型倒産は、11月まででレナウン、キャス・キッドソンジャパン、シティーヒルの3件にとどまり、件数も前年より減少した。「各種のセーフティーネットや融資の利用による資金調達、不渡り猶予措置」により、かろうじて耐えている状況ではあるが、企業の半減という予想は当たっていない

20年のファッション小売り市場は19年より20~30%減少すると予想されている

新しい需要を狙う

一方で、好調さが際立つ企業もある。代表例が、ユニクロとワークマンだ。12月までの既存店売上高は、ユニクロが7カ月連続で前年実績を上回り、ワークマンは実に38カ月連続で増えている。

両社の強みは、全国に広がる店舗網と手頃な価格。両社をライバルとする見方もあるが、両社は互いを競合相手として捉えていない。むしろ、徹底して顧客のニーズに迫ろうという体制や話題性のある商品作りなどでよく似ている。コロナ禍の前から同質化や競合が問題視されてきたファッション業界で、「新しい需要作り」を目指してきた点も共通していると言える。その戦略の成功が、コロナ禍の厳しい環境のなかで抜きんでた格好だ。

ワークマンは「ユニクロはベーシックなアパレルで、我々は機能性ウェア。市場が異なる」とする。3年以上に及ぶ伸長ぶりは、同社が4000億円と推定する「普及価格のアウトドアやスポーツ向けの機能性ウェアの市場で有力な競合がいないから。強みを忘れて、ユニクロとかぶる製品を出したら必ず負ける」と見る。

ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長も、「競合するみたいに書くメディアがあるが、我々もワークマンも新しい需要を作ったから成長した」との考えを強調している。厳しいコロナ下で従来の市場のパイを奪い合うのではなく、客の声に耳を傾けて商品を作り、なおかつ「新しい需要を作ることのできる服が(ファッションの商売には)必要」と話している。

真の持続可能を目指す

コロナは、これまでのファッションビジネスを見直す機運ももたらした。サステイナブル(持続可能)な物作りとは何か、サプライチェーンとは、流通とは何か…。これは大きな問題であり、ずっと以前から指摘されてきた。しかし対応が先送りにされていたが、コロナ下で業界全体で協力すべき課題に位置づけられ始めた。避けて通れないというだけでなく、大量生産や過剰在庫、値引き販売という既存のサイクルは、とりわけ早急に解決しなければならないものと受け止められている。

象徴的なのが、デザイナーブランドによるビジネスの簡素化への呼びかけだ。環境配慮への志向を含め、世界的に仕組みを変えようという流れが強まった。20年5月にドリス・ヴァン・ノッテンらが発表したのが、きっかけの一つだった。

そこには、多額の費用と大勢を巻き込んで、当然のように続けてきたコレクション発表の多さと、その結果としての3カ月ごとの値引き問題への反省がある。秋冬シーズンを冬(8~1月)に戻し、春夏シーズンを夏(2~7月)に戻すなどの対策が提案された。20年9~10月には例年通り、21年春夏デザイナーコレクションが行われたが、ファッションウィークに合流するデザイナーもいれば、その会期を外したブランドもあった。それぞれのブランドが、自らのビジネスに合った時期を判断して発表する形が広がり始めている。

自分らしい暮らしを満たす

ファッションビジネスにコロナ禍が突き付けたのは、エッセンシャル(不可欠の)産業か否かという言葉でもあった。

もちろん、医療従事者のように直接に命にかかわることはなく、生きるために必要な食品を供給しているのでもない。巣ごもり需要が成長した半面、おしゃれをして出かける場も、通勤着さえも減少した。

しかし、服をまとうことは、人間が生きる根本にある。身体の安全や健康に貢献するだけでなく、一人ひとりが自分らしく暮らすために欠かせないのが、衣服であり、ファッションアイテムだ。不要不急という言葉の裏側で、心の充足をもたらすものの必然性に皆が気づいた。その豊かさは、今後も変わらないファッションの価値だ。

その価値を知る人々は、ファッションの可能性を確信している。これまでの常識が揺らぎ、崩れていく部分もあるからこそ、大きなチャンスがある。産業に対して転換を迫る巨大な力は、旺盛な新陳代謝をも促す。ここには、新しい人材が欠かせない。今、採用を募る企業には哲学も戦略もある。一緒にファッションの明日を作る人材が求められている。

ドリス・ヴァン・ノッテン21年春夏コレクションから(Viviane Sassen写す)

(センケンjob新卒'22-'23BOOKより)

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