【小笠原拓郎】カール・ラガーフェルドさんを悼む

  • 2019年02月27日更新
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巨星墜つ カール・ラガーフェルドさんを悼む

ファッション業界にとって、まさに「巨星墜(お)つ」である。

「シャネル」「フェンディ」「クロエ」など数々のラグジュアリーブランドのディレクションを手がけてきたカール・ラガーフェルドさんが亡くなった。同時期に国際ウール事務局のコンテストで見いだされたイヴ・サンローランはすでに他界している。それだけに、彼の死を一つの時代が終わったととらえるファッション業界人は多い。

ファッションデザイナーには二つの異なる才能を持ったクリエイターがいる。一つは自らのブランドを軸に、新しいオリジナルの世界を描いて時代に勝負を挑む者。もう一つは過去のアーカイブを元にしながら、今につながる要素を抽出し新しい解釈を加えて時代に提起する者である。

ファッションデザイナーとしてどちらが優れているといった問題ではなく、それは異なる二つの才能と言っていい。そしてラガーフェルドの場合、自らのブランドもあるが、圧倒的に後者に属するデザイナーと言える。しかも相当高いレベルでそれができるデザイナーであるからこそ、数々のブランドを任されてきた。

19年春夏コレクションのフィナーレで

かつての彼のブランド「ラガーフェルド・ギャラリー」と、シャネルのクリエイションの対比を感じるシーズンがあった。自らのブランドの重く沈んだ色使いのダークなムードに反して、シャネルのコレクションは明るく弾んだキャッチーなコレクション。それが同じシーズンに登場した。時代のとらえ方と表現手法が、同じデザイナーにもかかわらずこんなに違うのかと驚いた。

そして難解なラガーフェルド・ギャラリーに対して、シャネルがなんとキャッチーだったことか。時に自らの世界を色濃く投影する自分のブランドと、歴史やアーカイブを背景にやや俯瞰(ふかん)して時代との焦点を探るデザインの違いだろうか。

そして、シャネルというオートクチュールメゾンの優れた手仕事の技とラガーフェルドのデザインのマッチングが優れていたということなのだろう。最近では18年春夏にラグジュアリーブランドにもかかわらず、PVC(ポリ塩化ビニル)のアイテムをずらりと揃えてトレンドをリードすることがあった。そんな時代をとらえる才能は突出していた。

PVCを使った18年春夏コレクションから

ラガーフェルドのデザイン手法が、現代のラグジュアリーブランドのクリエイション面のひな形となったのは間違いない。今や、あらゆるラグジュアリーブランドが才能あるデザイナーをディレクターに据えて、クリエイションとビジネスを回している。しかし、彼ほど自らの色を殺して、純粋にそのブランドと時代のマリアージュに没頭するデザインができた人はいない。

エディ・スリマンにしても、ニコラ・ジェスキエールにしても、ブランドの伝統よりも自らの世界を描きたいという業のようなものが勝ってしまうからだ。そういう意味で、カール・ラガーフェルドは二つのタイプに分かれるファッションデザイナーの後者に属するトップの中のトップと言える。

故人の業績をしのび、心から哀悼の意を表します。

(写真=大原広和)

18年春夏コレクションのフィナーレで

 

小笠原拓郎(繊研新聞社 コレクション編集委員)

1966年生まれ。92年繊研新聞社編集局入社後、95年からコレクション取材を担当。20年以上に渡り、世界のコレクションを取材し続ける。メンズとウィメンズの世界の主要コレクションをカバーする唯一の日本人ジャーナリスト。

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